UMA PALAVRA

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UMA PALAVRA(1995)

 このアルバムは、シコ・ブアルキの過去の作品を美しい演奏にのせて再演したもので、とても贅沢な内容になっている。シコのメロディの魅力を一流の演奏で心ゆくまで楽しむことができる素晴らしいアルバムだ。

 大好きな"ESTACAO DERRADEIRA"から始まって、"SAMBA E AMOR"でもの悲しいメロディに酔い、"ELA DESATINOU"や"QUEM TE VIU QUEM TE VE"あたりで完全にシコの世界に浸り切ることができる。

 とにかく良い曲ばかりなのである。そして、上品で美しい演奏でシコの独特の歌声をじっくりと味わうことができる。何度も聴きたくなってしまうのは、シコのファンなら仕方のないことだろう。

 もちろんシコのファンだけでなく、シコを初めて聴く人にもおすすめできるアルバムだと思う。もっとも、初期のアルバムや70年代のアルバムも同時に聴くべきだとは思う。この上品な味わいだけがシコの魅力ではないから。

 あらためてシコのつくり出すメロディの魅力を実感できるアルバムである。

PARATODOS

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PARATODOS(1993)

 すべての人のために"PARATODOS"と題された、このアルバムのジャケットには、ブラジルに住んでいるあらゆる人種の人たちの顔写真が写されている。

 ジャケットの中央にはシコ・ブアルキの顔写真が配置されているが、これは、過去にシコがブラジルの軍事政権から検閲を受けていた時の身分証明書の写真だろう。シコの正面を向いた顔の下には番号が打たれている。

 軍事政権の時代がが過ぎ去って10年がたち、シコはここでまた自分自身とブラジルの人々のことを振り返って見たに違いない。ブラジル音楽の偉大な作家や歌手を讃える歌があったり、ブラジル音楽のショーロやサンバに対する愛情を見せた曲もある。アントニオ・カルロス・ジョビンとの共作も収められており、ジョビンのピアノと歌声が聴けるのも嬉しい。

 タイトル曲では、アントニオ、ドリヴァル・カイミ、ジャクソン・ド・パンデイロ、ネルソン・カヴァキーニョ、ルイス・ゴンザーガ、ピシンギーニャ、ノエル、カルトーラ、カエターノにジョアン・ジルベルト、エラズモ、ベン、ホベルト、エルメート、エドゥ、そしてナラにガル、ベターニアなど、ブラジル音楽の大物たちの名前が歌われていて聴いていて楽しい。

 サンバへ帰ろうと歌った"DE VOLTA AO SAMBA"はシコらしい魅力がいっぱいだし、穏やかなメロディが魅力の"FUTUROS AMANTES"などは、じっと聴いていると美しい演奏に吸いこまれそうな感じがする。

 エドゥ・ロボとの共作になる"SOBRE TODAS AS COISAS"は、愁いのあるメロディがとても美しい作品だ。

CHICO BUARQUE AO VIVO PARIS LE ZENITH

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CHICO BUARQUE AO VIVO PARIS LE ZENITH(1990)

 このアルバムは、シコ・ブアルキがパリのゼニス劇場で行ったコンサートの模様を収録したライヴ盤である。内容はもちろんシコの名曲を数多く収録したもので、LPレコードでは2枚組で発売されていた。

 "SAMBA DO GRANDE AMOR"などでは、会場からの合唱も聴こえてきて、観客の反応もよく、フランスにもシコのファンは多いのだと実感できる。

 夜など小さなヴォリュームでこのアルバムを聴いていると、一流の演奏陣が奏でるシコの名曲が美しく静かに流れてきて、スタジオ録音で聴いてきたシコの歌声が、またひと味違った雰囲気で楽しめる。

 "PALAVRA DE MULHER"を歌うシコの歌声には、どこかひとり寂しい孤独がにじみ出ているようで、なぜか聴いていて物思いにふけってしまう。

 シコが直立不動で歌っている姿を思い浮かべながら、ひとりで夜によく聴いたものだ。そのころはまだシコの動く姿は見たことがなかった。

CHICO BUARQUE

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CHICO BUARQUE(1989)

 美しいメロディの"MORRO DOIS IRMAOS"で幕を開ける、シコ・ブアルキのソロとしては14枚目のアルバム。このアルバムでは、美しいシコの作品はもちろん、エドゥ・ロボ、ジルベルト・ジル、ジャヴァンとの共作曲が収録されている。

 穏やかな雰囲気に満ちた心地よいアルバムで、聴きはじめると何度もリピートしてしまいたくなる。浮遊感のあるメロディとシコのくつろいだ歌声を聴いていると、不思議な魅力に飽きることがない。

 逆に言うと、強い印象の曲が少ないとも言えるのだが、これはこれでシコの魅力にあふれたアルバムだと思う。地味で落ちついた魅力のアルバムなのだ。

 シコの作品では"MORRO DOIS IRMAOS"や"TRAPACAS"などで美しいメロディを楽しめるし、軽快な曲調が魅力の"O FUTEBOL"が楽しい。ベベウ・ジルベルトが歌声を披露している"A MAIS BONITA"も美しい雰囲気だ。

 エドゥ・ロボとの共作では"A PERMUTA DOS SANTOS"で不思議な魅力のメロディを楽しめる。ジャヴァンと共作の"TANTA SAUDADE"では、リズミカルな演奏に乗ったメランコリックなメロディがいい。シコものって歌っている。

 ラストの"VALSA BRASILEIRA"では、シコが美しいメロディ切々と歌い、このアルバムにもの悲しい余韻を残している。

FRANCISCO

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FRANCISCO(1987)

 アルバムのタイトルは、シコ・ブアルキのクリスチャン・ネームであるフランシスコをそのままつけたもの。シコはフランシスコの愛称。シコはブラジル人だからもちろんカトリックである。

 それにしても美しい音のアルバムだ。エドゥ・ロボやジョアン・ドナートとの共作ををはじめとして、ヴィニシウス・カントゥアリアやクリストヴァン・バストスとの共作も収められているが、その他はすべてシコの作品で占められている。

 シコの作り出すメロディとバックの演奏も、とても都会的な雰囲気にあふれている。シコの作品の中でも、大好きな歌がたくさんあるが、中でも最も好きな歌のひとつが、このアルバムに収められた"ESTACAO DERRADEIRA"である。

 この歌には、今でもときどき勇気づけられ慰められている。忘れられないシコの作品のひとつだ。この曲はシコの愛するサンバについて歌ったものだが、メロディに少し甘酸っぱい哀愁と希望に満ちた躍動感が感じられて心にしみる。

 哀愁のある"AS MINHAS MENINAS"や"UMA MENINA"なども好きな歌だし、ヴィニシウスとの共作になる"LUDO REAL"のメロディも素晴らしい。クリストヴァンとの共作の"TODO A SENTIMENTO"も同様の美しい作品だ。

 とても洗練された美しい名盤だと思う。