CARIOCA

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CARIOCA(2006)

 シコ・ブアルキのソロアルバムとしては、1999年に発表した"AS CIDADES"以来7年ぶりの作品となる。前作も素晴らしい内容だったが、このアルバムではさらに音楽の完成度が高くなったように思う。

 今までの親しみやすいメロディの内容から、少し時間をかけて聴き込まないとその良さが分からないような、高度で微妙な音づくりに変わってきている作品もある。もちろん、シンプルで魅力のある作品もちゃんと収録されている。

 アルバムタイトルの「カリオカ」とは、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロ生まれの人のことで、ジャケットにはリオの街路地図が投影されてプリントされている。しかもシコの顔の上にまで。

 シコ自身がカリオカであることから、自身のルーツを再確認する意味も含めて、リオへの愛情をこめたアルバムとなっているのだろう。シコもリオの一部なのだと主張しているようなアートワークである。

 収録された作品の中では、愁いをおびた"PORQUE ERA ELA, PORQUE ERA EU"や、軽快な"DURA NA QUEDA"などが気に入っている。ジョルジ・ヘルダーとの共作"BOLERO BLUES"や、イヴァン・リンスと共作の"RENATA MARIA"も好きな曲だ。

 シコはアルバムのラストで、アントニオ・カルロス・ジョビンが残した曲に、シコが詩を書いた"IMAGINA"を歌っている。ブラジル音楽を代表するトン・ジョビンもカリオカであり、生前はシコもジョビンに可愛がられていたことを思うと、シコが敬意と愛情を持ってこのアルバムに収録したことが容易に想像できる。

CHICO NO CINEMA

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CHICO NO CINEMA(2005)

 アルバムタイトルである"CHICO NO CINEMA"のとおり、シコ・ブアルキのシネマに関する楽曲を収録したアルバムである。シコの名曲はもちろん、オリジナルのアルバムに未収録の貴重な録音も含まれており、シコのファンなら手に入れておきたい。

 ここでシコと一緒にデュエットを聴かせてくれるのは、エリス・レジーナを筆頭に、フランシス・イーミ、ミルトン・ナシメント、ハイムンド・ファギネル、テルマ・コスタ、ジジ・ポッシといったところ。

 ソロでは、マリア・ベターニア、ナラ・レオン、ファファ・ヂ・ベレン、ジャヴァン、ジジ・ポッシ、ベベウ・ジルベルト、エルバ・ハマーリョの歌声が楽しめる。

 いかにもブラジルらしい陽気な歌や、哀愁のこもった歌が歌われていく。時にリズミカルに、時にしっとりとした演奏は、聴いていると映画の一場面を次々と見せられているような気になってくる。

 あらためて、シコのつくる楽曲の楽しさや美しさを実感できる内容だと思う。歌によって微妙に表情を変えていくシコの歌声も素晴らしい。"EU TE AMO"をテルマ・コスタと一緒に歌うシコは、実にアダルトな魅力にあふれている。

DUETOS

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DUETOS(2002)

 このアルバムは、過去にシコ・ブアルキが他のアーティストたちとデュエットをしたナンバーを収録したもので、シコのオリジナルに限らず、コール・ポーターをはじめとして他のアーティストの作品も聴くことができる。

 シコとデュエットを聴かせてくれるのは、アントニオ・カルロス・ジョビン、アナ・ベレンディオンヌ・ワーウィック、エルバ・ハマーリョ、エルザ・ソアレスジョアン・ド・ヴァリ、ジョニー・アルフ、メストリ・マルサル、ミウシャ、ナナ・カイミ、パブロ・ミラネス、セルジオ・エンドリゴ、ゼカ・パゴヂーニョといった面々である。

 どの曲も素晴らしいが、アナ・ベレンと歌う"MAR Y LUNA"やエルザ・ソアレスと歌う"FACAMAS (VAMOS AMAR)"などが特に聴きごたえがある。姉のミウシャアントニオ・カルロス・ジョビンとで歌う"DINHEIRO EM PENCA"は10分間の大作である。

 メストリ・マルサルと歌う"DESALENTO"は、シコの哀感のこもったメロディが美しい作品。このアルバムの中ではいちばん気に入っている。

PEDACO DE MIM

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PEDACO DE MIM(2001)

 このCDアルバムは、2001年に発売になったシコ・ブアルキの初期から中期までのアルバムを収録したボックスセットに"CD-BONUS"として添付されたもの。いわゆる、正規のアルバムには収録されなかったレア・トラック集といったものであるが、収録された作品はとんでもなく貴重なものばかりである。

 当時のシングル曲や、他のアーティストと共作しているもの、デュエットしているものなど、ブラジル音楽が好きなら黙って聴き入ってしまうだろう。

 もちろんただ単に貴重だというだけではなく、収録された作品はどれも出来が良く、思わず聴き惚れてしまうものばかりだ。

 シコと一緒に歌っているのは、エリス・レジーナをはじめとして、ナラ・レオン、クアルテート・エン・シー、MPB-4、トリオ・エスペランサ、トッキーニョ、ミルトン・ナシメント、ファギネル、ジャヴァン、ジジ・ポッシといったアーティストたちだ。キューバのパブロ・ミラネスとの共演も聴くことができる。

 共作として収録されているのは、トッキーニョとの"SAMBA PRA VINICIUS" シヴーカとの"JOAO E MARIA" ミルトンとの"PRIMEIRO DE MAIO" "O CIO DA TERRA" ノヴェリとの"LINHA DE MONTAGEM" アントニオ・カルロス・ジョビンとの"A VIOLEIRA" "MENINOS EU VI"などといったところ。

 シコが、かつて軍事政権の検閲から逃れるために使用した変名のジュリーノ・ダ・アデライヂ名義の作品も収録されているし、同名でクアルテート・エン・シー、MPB-4といっしょに歌っているナンバーも収録されている。

 最後に収録された、シコとジジのデュエット"ANEMA E CORE"があまりに美しい。

CAMBAIO

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CAMBAIO(2001)

 このアルバムは、シコ・ブアルキとエドゥ・ロボの手になるサウンドトラック盤である。どのような原作のサウンドトラックなのか詳細が分からないのだが、収録された音楽については素晴らしい内容だと断言したい。音楽も演奏もアレンジも録音も、とてもレベルが高い作品に仕上がっていると思う。

 シコとエドゥの手になる作品を歌うのは、ふたりの他にガル・コスタとジジ・ポッシ、そしてレニーニなのである。ガルやジジはおなじみの顔ぶれであるが、レニーニが参加しているのが興味を引くところだ。

 このアルバムは親しみやすいというよりも、ちょっと冷たい感じがするほど音楽が高度である。聴いているとシュールな雰囲気を漂わせるところがあって驚くほどだ。カエターノ・ヴェローゾの新作よりも先鋭的だと感じるのは自分だけだろうか。

 エドゥの歌う"A MOCA DO SONHO"や"NOITE DE VERAO"では、哀愁のあるメロディが魅力だし、ラストの"CANTIGA DE ACORDAR"では、シコとエドゥそしてジジの歌声がゆったりと宙に舞うようで夢見るように美しい。